内肛動物の分類
内肛動物の分類体系
Iseto, 2017で採用した分類体系です。
*は日本から報告がある属。
Entoprocta Nitsche, 1870 (=Kamptozoa Cori, 1929)
Loxosomatidae
*Loxosoma Keferstein, 1862
*Loxosomella Mortensen, 1911
*Loxomitra Nielsen, 1964
Loxokalypodidae Emscermann, 1972
Loxokalypus Emscermann, 1972
Barentsiidae
*Barentsia Hincks, 1880
Coriella Kluge, 1946
Pedicellinopsis Hincks, 1884
*Pseudopedicellina Toriumi, 1951
*Urnatella Leidy, 1851
Pedicellinidae
*Pedicellina Sars, 1835
*Loxosomatoides Annandale, 1908
Myosoma Robertson, 1900
Sangavella du Bois-Reymond-Marcus,
1957
科、属の補足説明
- LoxosomatoidesとMyosoma の違いについて
両属は形態的にとても似ており、同名と扱っても良さそうだが、実際にこの群を扱ったWasson, 2000と、Wood, 2005はそれぞれ「シノニマイズ可能である」「正直なところ分類学的に区別できないのだが」と書きながら、その判断を保留した。
二人の理解は以下である。
<2属の共通点(Pedicellinidaeの他属との相違点)>
A) 萼部の口側(前側)の筋肉が発達している。
B) 萼部が前方に傾いている。
C) 萼部の後方が厚いクチクラのシールドで覆われている。
D) 萼部があまり扁平に(側方から圧縮されたように)なっていない。
<2属の相違点>
a) Loxosomatoidesの方が柄部の筋肉が弱い
b) Loxosomatoidesは淡水産種である(ただし例外あり)
c) Loxosomatoidesは休眠芽を作る(ただし、不明な種もあり)
一方、Loxosomatoidesについては、L. evelinaeを除いて,楯に多角形の装飾があるが,それを有しないL. sirindhornaeをLoxosomatoidesに含めるのは疑問だという意見もある(Schwaha et al., 2010)。
- CoriellaとPedicellinopsisの違いについて
この2属はどちらも樹状の群体を形成する点でとても似ている(各個虫の柄部が樹状に分岐するという意味でなく、走根が樹状に集合する。幹を作ると表現すると分かりやすいだろう)。詳しく観察したことがない人(私です)であれば、シノニマイズしたくなるほど似ているが、よく観察した人たち(Borisanova & Potanina, 2016)が、Coriellaの新種を報告した際に両属を区別したため、私も区別する立場をとることができた(Borisanovaさんは内肛動物研究の新星である)。Borisanova & Potanina (2016)が指摘する両属の”幹”の違いは以下である。
<Coriellaの幹>
走根が隣接することによって形成されている。
<Pedicellinopsisの幹>
一塊の硬いチューブになっている。その内部構造の詳細までは報告されていないが、複数の走根が癒着したのであろう。
内肛動物に用いられたことがある種階級群より上位の分類群名の解説(順次追加予定)
- Ascopodaria: Barentsia 属の異名だが、設立された時点で既に異名だと認識されていた特異な属名。Busk (1886)によると、「私(Busk)は、チャレンジャー号採取標本に対して1878年にAscopodariaを原稿名として用いており、そのことはAllman (1879)でも言及されている。1880年にHincksが北極で採取された同じ特徴を有する標本に対してBarentsiaを設立したが、先取権から、Ascopodariaが有効だ」という。しかし、未公表の原稿名では適格名であったことにはならず、よってBarentsiaがに先取権のある有効名になる。
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Brachionus: 輪虫の1属の学名。世界で初めて内肛動物が記載された時に、輪虫の仲間としてBrachionus cernuusと名付けられた経緯がある。のちにSars (1835)によりPedicellina
が設立され、同種はそこに移行され、今はPedicelllina cernuaとなっている.
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Calyssozoa Clark, 1921: EntoproctaをBryozoaと明確に区別するためにClark (1921)がつけた名称。刺胞動物に同名があっためにCori (1929)によってKamptozoaと改められた。
- Chitaspis Annandale, 1916: C. athleticus Annandale, 1916の記載時に設立された属で、柄部の反口側に筋肉がないことが特徴とされたが、Wasson et al. (2000)によりLoxosomatoides属の新参異名とされた。ただし、Schwaha et al. (2010) はまだ再調査が必要としてChitaspisを残している。
- Coloniales Emschermann, 1972: Emschermannが1972年にLoxokalypus属を記載したが、この種が群体性でありながら単体性に似た性質を持っている特異な種であったため彼は分類体系の再構築を行なった。Loxokalypus属を含むLoxokalypodidae科を設立し、これを含めた全ての群体性の科をまとめてColniales目としたのである。同時に単体性の科(Loxosomatidaeのみ)はSolitaria目とされた。しかし、Loxokalypus属が単体性の特徴をもつのであれば、群体性か単体性かという二分法は系統を反映していないと考えるのが自然であり、この特異な種と単体性との近縁性を反映した分類体系を作るべきではなかったのか?Nielsen氏にも意見を聞いたところ、やはりこの二分法は自然でないという意見だったので、以降は伊勢戸もColonialesとSolitariaは用いていない。
- Cyclatella: Van Beneden & Hesse, 1863において、単体性内肛動物がTrematodes(吸虫類)だと考えられて設立された属。同時に同論文でCyclatella annelidicola (=Loxosoma annelidicola)が新種記載されている。なお、ここでCyclatella属が同論文にて設立されたと捉えたのはNielsen(私信)によるが、同論文を見ても”新属”だとは明記されてはおらず、詳細は確認できていない。Mortensen, 1911がLoxosomaの新参異名としている(より早く主張している文献があるかどうかは未確認)
- Emschermanniidae: Borisanova (2016a)で Emschermannia ramificata が新種記載された際に、「もしpseudostolonsで個虫が結合していて群体を作ることが明らかになれば、本種はLoxosomatidaeには含められないので新科Emschermanniidaeに含めることになる」という仮定のもとに記述された科名。国際動物命名規約第4版11.5条の要件を満たさないため適格名でない。(ちなみに、E. ramificata は芽体に見られる足の構造からも、明らかにLoxosomatidaeかつLoxosomella属である)
- Endoprocta: <継続調査中>
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Entoprocta Nitsche, 1879: Nitscheがそれまでに知られていた3属(Pedicellina, Urnatella,
Loxosoma)を一つにまとめる際につけた分類群名。Bryozoaの他の全てをEctoproctaとしてまとめ、区別した。なお、Entoproctaを初めて門の階級としたのはHatschek (1888)である。
- Gynopodaria Ehlers, 1890: Ehlers (1890)が以下の2種を含めて新設した属。Barentsia属の新参異名。
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- G. nodosa (Lomas)
- ? G. australis (Jullien)
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Kamptozoa Cori, 1929: Entoproctaと同義だが、Ectoprocta(外肛動物)との紛らわしさ、もしくは類縁性が示唆されることを避けるために用いられる名称。
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Lacunifera Ax, 1999: 内肛動物と軟体動物をまとめた分類群。
- Loxomorpha: Loxosominaを参照。
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Loxosomidæ: Thomas Hincks (1880)が現在のLoxosomatidae Hincks, 1880に相当する科を設立した際に使った綴り。現在の綴りが使われるようなった経緯も要確認<継続調査中>
- Loxosomina: NIelsen (1996) によって提唱されたLoxomorphaの置換名。Loxomorphaがツトガ科(Crambidae)のジュニアホモニムであることが分かったことへの対応。
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Loxosomatoides: Annandale (1908) により、L. colonialisの記載時に設立された属。
- Plumularia: Plumularia bullata Fleming, 1826(有効名:Barentsia bullata (Fleming, 1826))で使われていた属名。ハネガヤ科(ヒドロ虫類)の一属。
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Polyzoa Thompson, 1830:
- Loxostemma: Nielsen (1996) によりLoxosomaの新参異名とされた。
- Pedicellinæ: Johnston (1847)が現在のPedicellinidae Johnston, 1847を設立した際に用いた綴り。現在の綴りが使われるようなった経緯も要確認<継続調査中>
- Solitaria Emschermann, 1972: →Colonialesを参照
- Tholophora: Salvini-Plawen (1980)が提唱した内肛動物の幼生の名称。何故か普及していない。
内肛動物の和名
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スズコケムシ:概ね Barentsia discreta の和名として使われているが、その起源は調査中(→下記「ウミウドンゲ」も参照のこと)。<継続調査中>
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ウミウドンゲ:織田(1983:「遺伝」37巻1号、75-81)によると、丘(1890)が、Barentsia misakiensis を記載し、これをウミウドンゲと名付けたが、のちに Barentsia
discreta(スズコケムシ)の異名となり、ウミウドンゲの名称が忘れ去られてしまった…という。その上で、織田(1983)は Barentsia discreta
をウミウドンゲとよぶことを提唱している。しかし、丘(1890)を見てもウミウドンゲという名称は提唱されていない(「ウドンゲ(蟲の卵)に似ている」と書かれているのみ)。また、Barentsia discreta=スズコケムシとする根拠も不明である。よって、スズコケムシ、ウミウドンゲともに、その和名の起源は不明で、継続調査中である。<継続調査中>
- 足胞科:Barentsiidaeの和名として使われている。起源は不明<継続調査中>。他の科では特に和名がないようなので、統一させたい場合は本科も”バレンチア科”と称しても問題ないと思われる。