日本動物分類学会第50回大会(国立科学博物館・筑波研究施設)
2014年6月14-15日(土~日)
動物分類学のための情報学を考える
○伊勢戸 徹
独立行政法人海洋研究開発機構 地球情報基盤センター
動物分類学は個体標本の仕分け作業である。ある学名を担うのは1個体の担名標本のみであるが、その標本と同一種であると判断される他個体の標本(あるいは、分類学的な文献中で扱われる標本に基づいた記録)はシノニム表に集約される。これによって個体の集まりとしての“種”の見解が示され、既存の種に当てはまらないと判断される個体標本があれば新種の記載が行われる。研究者の見解の違いによりシノニム表は再編成され続ける。いわば、個体標本は学名という名のタグを複数の研究者に貼られ、貼り替えられる。この作業を、国を越え、時代を超えて行う作業が動物分類学である。
このように個体標本を単位としつつ、学名を研究者各々が別々に付与することが可能な協働型の情報システムを構築すれば、それが動物分類学に有用な作業プラットフォームとなり得る。既存の「生物多様性情報学」の諸システムとの違いを明確にするために、そのような情報システムが持つべき要件を整理したい。なお、現状では情報システム上では命名法的行為は扱えない。
1. 『個体標本』は一つの『出現記録(Occurrence Record)』
個体標本はその個体が「その時」「そこに」いた証拠である。これは、生物多様性情報学で『出現記録』と呼ばれるものに相当し、同様に扱える。
2. 『出現記録』にはバウチャーとなる標本が必要
分類学的用途には標本が必要となる。既存のデータベースには標本がない出現記録も多いので、目的を区別しながらの活用が必要である。
3. 同定は修正せず、追加する
同定の変遷は、“間違い”の修正なのではなく、新たな判断の追加である。過去の同定を上書きすることなく、一つの個体標本に対し、複数の研究者からの複数の同定が付与できることが必要である。
4. 同定の選択義務は利用者にある
分類学者によって種の認識が異なることは多い。どれを利用するかの決まりはなく、その学名の利用者が選択している。情報システム上でも個体標本の“正しい”同定を、システム管理者が一意に定めてはいけない。