日本動物分類学会第48回大会(東邦大学習志野キャンパス )

2012年6月9-10日(土~日)

 

Baskauf , 2010による生物出現情報システムの紹介と

分類学との関係に関する考察

 

伊勢戸徹

海洋研究開発機構 地球情報研究センター

 

 我々分類学者が扱う標本は、その個体がいつどこにいたのかを表すもので、出現(Occurrence)情報の一種となる。Baskauf (2010)は生物に関わる様々な出現情報(その単位を『リソース』と呼ぶ)をweb上で共有する仕組みを考案している。要点は以下である。

・全ての『出現リソース』には個別の絶対固有のIDGUID)を持たせる。

・全ての『出現リソース』は“個体”に対する情報であるべきである。

・同一個体に複数の『出現リソース』(標本、画像、分子情報など)が連鎖的に生成され得る。

・『出現リソース』はその出現を表しているものによって区分される。

1)情報リソース:デジタル画像、DNA塩基配列等のデジタル情報。

2)物理リソース:生体、標本、フィルム写真など物的なもの。

3)観察リソース:出現を示すものが残されていない。

・物理リソースからは情報リソースが生成できる。webで扱うためには、いずれは情報リソース化することが前提となる。なお、観察リソースからは情報リソースは生成できない。

・“分類情報”は『出現リソース』にメタデータとして組み込むのではなく、固有のGUIDを持つ独立したリソースとして扱う。各『出現リソース』に対する同定情報は、“分類情報”とのリンクによって付与される。

・情報リソースは、同定の妥当性についてユーザによる検討が可能である。

 

所見

 この仕組みが分類学として注目される点は、情報を必ず個体に紐づけて集めること、そして単一個体に複数の同定情報の紐づけが可能であることである。このような形で『出現リソース』がweb上に流通すれば、分類学者がそれぞれの『出現リソース』に対して“分類情報”を付与することが可能となり、あたかもweb上で標本を“分類”するかのようになるかもしれない(もちろん命名規約に触れない範囲で)。必要になれば実物の標本を観察し、新たな観察形質を情報リソースとして追加すればいい。長期に渡る複数の分類学者の同定が付与されれば、シノニム表と同等の情報が蓄積され得る(望めばシノニム表を自動的に描き出すことも可能となるだろう)。

 一方で、既存の出現情報のデータベースには同定を確認する情報が何もない“観察リソース”も少なからず登録されており、そのような情報に対しては分類学としては貢献する術がない。

 

Baskauf, S. J. 2010. Organization of occurrence-related biodiversity resources based on the process of their creation and the role of individual organisms as resource relationship nodes. Biodiversity Informatics 7:17– 44.